版画美術館にて

美術館の壁面広告
最終日ちかくになって、ようやく企画展「暮らしの版画 毎日を楽しむために」と、常設展示室の版画いろいろ小特集拡大版「小さい版画・大きい版画」を拝見した(町田市立国際版画美術館、2005年6月25日〜9月25日)。企画展の思い出を以下に記す。

I. 祈り

仏教版画

印仏いろいろ。信仰ご利益のスタンプ集。

キリスト教を主題とする初期木版画
キリスト教を主題とする民衆版画

マリア様の心には七本の短剣(七つの悲しみ)が刺さっている……。民衆版画(エピナール)「十字架の道行き」はハイキングのようだ。同「新しいエルサレム」は赤、緑、黄の配色がいいな。凡が画中に居るならば、現世では凄い方向音痴だが迷うことなく図右下の地獄行きだ。

II. 民衆

フランスの民衆版画

ダメ夫改良器「奇跡の蒸留器」&悪妻バージョン「奇跡の粉挽き器」の図。この器械を通れば、飲む打つ買うDVも浪費や遊び癖も治まって、模範的な夫妻が出来上がるハズ。エピナール最高!
「あやつり人形 道化師」は絵葉書(id:kashoh:20040623#p1)が発行されている。この道化師の顔を見て、八代亜紀を連想した。
「着せ替え人形」と「着せ替え人形 軍服」。前者は一紙に紳士淑女をペアで掲載、後者は男性の軍人のみ。紙製フィギュアでコスプレが楽しめる。衣装デザインも時代がかっていておもしろいし、グッズとして販売されたら人気でそう。
「凧 月を征服しに行こう」。満月に梯子を掛けて遠征するのは、帽子からしてトルコの人?

ポスター

ヴァロットン描く人物の目がかわいい。

中国の年画

年画だ、これを見たかった! 「蓮生貴子」はパタリロ体型の童子のポーズと彩色がたまらない。蓮に童子に蜃気楼の「海献蜃楼」でクラクラの境地に運ばれる。「大中華民国九年六十花甲子八仙春牛図」の仙人に、鉄拐は入っているけど蝦蟇仙人が居ないよ(残念)。
   
エントランス柱の宣材掛軸↑“毎日を”の下に、ちっこく道化師(の頭部と胴体)。年画童子ソロの掛軸もあり。

III. 書籍

東洋と日本の書籍

黒地に白の『新刊聖蹟図』がカッコイイ。ビアズレーの『アーサー王物語』を思い出した。

ヨーロッパの書籍

ブラント『阿呆船』に始まりケート・グリーナウェイに終わる、凡が最も盛り上がったコーナー。
ビューイック『英国鳥類誌』(木口木版)あり、グランヴィル『もう一つの世界』(小口木版)、『生きている花々』(鋼版)あり。そして憧れのアメデ・ヴァランもあるよ!『蝶、天にくらす人々の下界の生活への変身』(鋼版)は初めて実寸で見た(何点か絵葉書は持っているのだが)。クールな描線。此処で見られるとは……うれしい。
W.クレイン『クイーン・サマー、あるいは百合と薔薇の騎馬試合』、グリーナウェイ『ハメルンの笛吹き』は手に取って実見したいなあ。

IV. 報道・諷刺

ナポレオンを主題とする民衆版画

「ペスト患者に触れるボナパルト」にびっくり。

西南戦争を主題とする錦絵

フランスがナポレオンなら、日本代表は西郷隆盛芳年「西南鎮静記」は男前に描いてあるな。小林清親の新聞錦絵って異色。九州の女隊の図、四代歌川国政の西郷星の図もおもしろかった。前期展示の橋本周延「西郷虎狼狸予暴魔茂痢奔損」、芳年「鹿児嶋婦女子乱暴之図」も見たかった。

フランス19世紀の風俗諷刺画
フランス19世紀の政治諷刺画

グランヴィル「自由の女神征伐のための大十字軍」(石版、縦270mm、横3625mm!)が見応えあった。異形の生きもの(含-ヒト)の長蛇の列。ヒトよりも乗り物にされている獣たちに目がいく。今回の展示にはグランヴィルの木口木版、鋼版、石版が出揃った。できることならグランヴィルには群仙図や蝦蟇鉄拐図を石版でオーダーしたい。

展示室から出て

絵葉書でほしい作品

  • 民衆版画(エピナール)「救いの聖母・七つの悲しみの聖母・ロザリオの聖母・スカプラリオの聖母」
  • 民衆版画(エピナール)「奇跡の蒸留器」
  • 民衆版画(エピナール)「奇跡の粉挽き器」
  • ブラント『阿呆船』各種
  • アメデ・ヴァラン『蝶』各種
  • グランヴィル「自由の女神征伐のための大十字軍」四枚組くらいで

夏休みに来館するコドモらにも判りやすいようにか、セクションごとの概説板の文字が大きく、作品ごとに解説文がつき、どちらも解りやすく書かれていた。書体はゴシック体で読み取りやすかった。
“民衆画”と一言にいっても幅広い地域、時代、ジャンルにわたる。その中から、バランス良くスマートに選択構成されていたと思う。中国の年画、グランヴィル、アメデ・ヴァラン(!)など、うれしかった。これから、エピナール版画も要チェックだ。
疲れずに楽しく見て廻れる分量、配置だった。出品リストが配付されたので、現地でのメモ取りはラクラク、帰宅してからの回想もヒタヒタ。観覧料(一般400円)は大変お得だった。
ありがとう、町田市立国際版画美術館。次回の企画展「浮世絵モダーン 20世紀伝統木版画の隆盛」も、すごく期待している。